コミケの鉄道島に「女性向け」ジャンルの一大勢力を築き上げたのが青春鉄道です。ここではコミケにおける女性向けサークルと青春鉄道の歴史(黎明期)について紹介します。
鉄道島における女性向けサークル
鉄道島サークル数の変貌
まずはこちらのグラフをご覧ください。C32(1987年夏コミ)からC98(2020年GW)までの33年間のコミケ鉄道島サークル数の変貌のグラフ(筆者作成)です。創作系が中心だったコミケに鉄道を題材にした本を配布した最初の「鉄道サークル」が誕生したのはC32(1987年夏コミ)でそれから少しずつ鉄道サークルがコミケに増えていき、C60(2001夏コミ)では鉄道ジャンルが誕生しました。C75(2008年冬コミ)以降、鉄道島は爆発し、急激にサークル数が増加しました。その理由は「青春鉄道」の登場です。青春鉄道については後述しますが、これ以降、青春鉄道と女性向け鉄道擬人化サークルが増えていき、C78(2010年夏)~C82(2012年夏)間は女性向けサークル数が従来の鉄道サークル数を上回りました。C82(2012年夏)に女性向けサークル数はピークに達し、それ以降、下降が続きましたがC90(2017年夏)より横ばいになり、今に至ります。C87(2014年冬)以降は減っていく女性向けサークル数以上に従来の鉄道サークル数が増えていき、C96(2019年夏)とC98(2020年GW)鉄道島は過去最高の416サークルに成長しました。
女性向けサークルの登場
鉄道島に初の女性向けサークルがいつ登場したかについて調べました。私が調査した中で見つけた最古はC51(1996年冬)B01b 「すたじおHAPPY2」です。女性目線でみた好きな鉄道車両について書かれています。厳密には今でいう女性向とは違い、おそらく対象者の性別は関係ないと思いますが、女性で作る鉄道本をうたっていたため今回取り上げました。合同誌「花咲く鉄路」は1990年代の伝説的な同人誌と聞いています。
※サークルカットはいずれも歴代コミケカタログから引用しています。
すたじおHAPPY2は女性が鉄道本を作っているだけで、本の対象者の性別は関係ないと思われますが、C53(1997年冬)も13b「まんまねえ屋」では鉄道島内で創作少女漫画を配布しています。もしこの本が鉄道関係でしたら、現代の意味での女性向け鉄道本の最古サークルになると思われます。
鉄道擬人化(女性向け)サークル数の変貌
鉄道島サークルの中から女性向けサークルをまとめたグラフです。青春鉄道とそれ以外の鉄道擬人化(女性向け)をそれぞれ集計しました。
C75(2008年夏)からアニメ(その他)に配置されていた青春鉄道が鉄道島に配置されることになりました。また、2009年からは都営大江戸線を男性擬人化した「ミラクル☆トレイン」プロジェクトが始まり、各メディアミックスが進行したことで、この年から女性向け鉄道擬人化が流行しました。C76(2009年夏)の企業ブースではミラクル☆トレインが出展しています。今まで鉄道擬人化といえば男性向けが中心でしたが、青春鉄道とミラクル☆トレインの登場により、鉄道擬人化(女性向け)が広く浸透していきました。
青春鉄道はC82(2012年夏)にピークに達し、それからしばらく停滞気味でしたが、C94(2018年夏)を底に近年は盛り返してきています。
C82(2012年夏)から急激しているのは女性向け界隈で何か別の流行が発生したからでしょうか、C87(2014年冬)以降減っていくのはおそ松さんや刀剣乱舞の影響、近年の盛り返しはミュージカルの影響と推測しています。
青春鉄道とは
概要
青春鉄道(あおはるてつどう)とは女性向け鉄道路線擬人化漫画です。青春氏の同人サークル紙端国体劇場(かみはなこくたいげきじょう)で配布していた同人誌発祥で、今では商業誌でも連載されています。この作品が登場したことにより、男性向けが中心だった鉄道同人に「女性向け」が登場、数年のうちに鉄道島の一大勢力になりました。
青春鉄道2019年度版です。時事ネタが中心で実際にあった出来事を各路線のキャラが紹介しています。登場してから14年が経過しており、登場キャラがすごく多いです。
紙端国体劇場コミケ参加歴
ここからは青春鉄道の生みの親である青春氏の同人サークル「紙端国体劇場」の初期のコミケ参加歴について紹介します。どんな大きな勢力でも最初()があります。ここではまだメジャーになる前の紙端国体劇場がどんな作品を配布していたか軌跡を見ていきましょう。
C69(2005年冬)
C66からコミケカタログをチェックした結果、最初に紙端(紙端国体劇場の以前のサークル名)の文字を見つけたのはC69(2005年冬)1日目ム49aです。この時の参加ジャンルはジャンプ(その他)で、カットから配布物はBLEACHがメインと思われます。
ム49aはこの場所です。この回が青春氏のコミケ初参加なら、これが後の一大勢力への最初の一歩ということになります。
C70(2006年夏)
C70(2006年夏)です。1日目C44aでジャンルはアニメ(その他)です。この回からサークル名が「紙端国体劇場」に変わりました。ネズミーランドの擬人化本を配布していたようです。青春鉄道wikiによればこの頃(配布日不明)に最初の青春鉄道の同人誌「東武線のダイヤ改正は本当に酷い」をコピー誌として発行しています。このコピー誌がC70で配布されていたとしたらそれが青春鉄道が最初に世に放たれた日になります。なお、C70の2週間後のイベントではコピー誌を印刷本にした「東武伊勢崎線のダイヤ改正は本当に酷い」を配布しています。
この頃はヘタリアの影響もあり、同人界隈では擬人化が流行り出しました。青春鉄道が盛り上がったのは擬人化ブームに乗れた影響もあると思います。
C71(2006年冬)
C71(2006年冬)は1日目I52b、アニメ(その他)です。ネズミー擬人化の本を配布しています。
C72(2007年夏)
C72(2007年夏)は1日目K36b、アニメ(その他)です。ついに鉄道擬人化の文字が現れました。青春鉄道wikiによればJR東日本、新幹線中心の本「僕の架線を守って」を配布しています。この時のエピソードの一部は青春鉄道1巻に収録されています。島中での配置はC72が最後です。
C73(2007年冬)
C73(2007年冬)は1日目E31a、アニメ(その他)です。鉄道擬人化の文字が大きくなり、元々配布していたねずみの本と同格になりました。青春鉄道wikiによればJR東日本、新幹線、西武鉄道中心の「秋雨前線異常なし」を配布しています。
配置スペースも初めて島端になりました。人気が出始めてきたのですね。
C74(2008年夏)
C74(2008年夏)は2日目A08a、アニメ(その他)です。ついに配置スペースが「A」壁になりました。サークルカットも青春鉄道のキャラになり、青春鉄道をサークル活動の主軸になったことがわかります。
C74より、本家の紙端国体劇場以外にも青春鉄道の二次創作を扱うサークルが登場しました。鉄道擬人化(女性向け)島の誕生です。青春鉄道の二次創作サークルの8サークルで構成されています。
紙端国体劇場(壁)と鉄道擬人化(女性向け)島(島中)の位置関係です。
C75(2008年冬)より、紙端国体劇場と鉄道擬人化(女性向け)島はアニメ(その他)から鉄道島に移動しました。鉄道島における鉄道擬人化(女性向け)の流行期の始まりです。
2009年、コミックフラッパーにて青春鉄道商業誌連載開始
2009年6月、最初の商業単行本である「青春鉄道」発行
C82(2012年夏)
青春鉄道はC82(2012年夏)に最盛期を向え、162サークルに拡大しました。上の配置表はC82東5ホールの配置図です。従来の鉄道サークルを黄色、鉄道擬人化(女性向け)を緑、青春鉄道を青色で分けました。
この回では鉄道・旅行・メカ・ミリタリージャンルの総数が420サークルに対し、鉄道島の総数が327サークルとジャンルの8割近くを鉄道が占めています。さらに、従来の鉄道サークル数138に対し、女性向けが186(青春鉄道が162、鉄道擬人化(女性向け)が24)と鉄道島の6割が女性向けというすさまじい配置となっています。
以上、青春鉄道の黎明期の姿でした。さあ、歴史が始まる。
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